巫女が信者に殺人を命じる

自称霊能者を再逮捕 薬物殺人容疑、本人は否認

2010年2月25日

 大阪府警は24日、民家などに放火したとしていずれも現住建造物等放火などの罪で起訴された自称霊能者の元民生委員、寺谷均美(ひとみ)容疑者(53)=大阪市東成区=と信奉者で介護士の田向(たむかい)啓子容疑者(53)=住居不定=を、知人に薬物を投与し、殺害したとする殺人と殺人未遂の容疑で再逮捕し、発表した。寺谷容疑者は「まったく知らない」と容疑を否認し、田向容疑者は「寺谷容疑者に指示された」と認めているという。

 捜査1課によると、2人は田向容疑者が介護していた得田知子さん(当時92)=同市西成区=を殺害しようと共謀。2007年4月3日、得田さん宅で田向容疑者が多量の精神安定剤を混ぜたヨーグルトを食べさせ、意識障害による肺炎を発症させた疑いがある。さらに同5月2日にも精神安定剤睡眠薬を飲ませて肺炎を発症させ、同18日に入院先でインスリンを注射。極度の低血糖状態にし、同27日に死なせ、殺害した疑いが持たれている。

 同課の説明では、得田さんの家族の1人が寺谷容疑者の信奉者で、家族関係について相談していた。寺谷容疑者は得田さんが死亡した数カ月後、この家族に「おばあちゃんは成仏しきれていないから護摩をたかなあかん」などと金銭を要求。府警は「お布施」が目当てだった疑いがあるとみている。

 2人が逮捕された現住建造物等放火・同未遂事件は計5件で、うち1件は得田さん宅の火災。大阪地検は得田さん宅の事件については処分保留としており、今回の事件と一括して処分する方針。

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 田向容疑者の弁護人によると、寺谷、田向両容疑者は大阪府内の私立高校時代の同級生で親友同士だった。だが20代半ばから次第に「霊能者」と「信奉者」の関係になっていったという。

 弁護人の説明などによると、田向容疑者は1983年に結婚。寺谷容疑者はその少し前から「枕元に神さんが降りてきて、神さんの言葉を伝える仕事をしなさいとお告げがあった」と話すようになっていた。田向容疑者がその言葉を信じ始めたのは結婚翌年の第1子誕生の頃。「容器に水を入れ、室内に置けば健康な子どもが生まれる」という寺谷容疑者の助言に従ったおかげだと考えたという。

 田向容疑者は、86年ごろには寺谷容疑者から「あんたのだんなは早死にする。お金を持ってきたら、祈祷(きとう)してあげる」と言われ、消費者金融から30万円を借りて渡した。その後も「私がいないとあんたは生きていけない」などと言われ、経理を担当していた夫経営の会社の金を使い、毎月数十万〜数百万円を振り込んだ。98年に夫と別居。離婚後も化粧品セールスや介護士をしながら現金を納め続け、府警によると、額は通算で約9千万円。寺谷容疑者が、田向容疑者を含む十数人の信奉者から受け取った金は数年間で計約2億円という。

 寺谷容疑者は、民生委員としての信頼は厚く、気さくな人柄で知られていた。近所の人によると、一人暮らしの高齢者から「あなただけが頼り」と慕われていた。霊能者を名乗っての活動は周囲にあまり知られていなかったが、生活に派手な面があり、頻繁に近所の喫茶店から家族分の朝食を配達してもらっていたという。

 府警によると、田向容疑者が「お不動さんの修行」などと言って放火や窃盗を指示されるようになったのは2003年秋ごろから。昨年3月、寺谷容疑者の近所で起きた放火事件で単独犯として逮捕、起訴された。捜査関係者によると、寺谷容疑者の指示を供述し始めたのは起訴後。「事件時、田向容疑者の姿が防犯カメラに映っている」と寺谷容疑者が府警に証言したことを知ったためだという。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201002250051.html

「生き霊原因」と殺害を指示 自称霊能力者ら再逮捕

 自称霊能力者の民生委員ら2人による民家放火事件で、大阪府警捜査1課は24日、同事件の被害者である大阪市西成区の会社役員(67)の母親・得田知子さん(当時92歳)に薬物を投与し、殺害したなどとして、指示役とされる民生委員・寺谷均美(53)、実行役で殺害を自供していた元介護士・田向啓子(53)両被告(ともに現住建造物等放火罪などで起訴)を殺人、殺人未遂両容疑で再逮捕した。寺谷被告は「全く知らない」と容疑を否認し、田向被告は認めているという。

 発表によると、両被告は共謀し、田向被告が介護を担当していた得田さんの殺害を計画。2007年4月3日、精神安定剤十数錠をすりつぶして混ぜたヨーグルトを食べさせて重度の肺炎にさせて殺害しようとした疑いがある。さらに、同年5月2日に多量の精神安定剤を溶かしたお湯を飲ませて意識不明に陥らせた上に、入院先の病室で精神安定剤インスリンを投与して、極度の低血糖と全身の衰弱で肺炎を悪化させ、同月27日に得田さんを殺害した疑い。

 捜査関係者によると、寺谷被告は約20年前から「日本一の霊能力者」を名乗り、近隣住民の相談に乗って“お布施”を受領。親族間の相談を持ち掛けてきた会社役員の妻に「義母(得田さん)の生き霊が原因。死んだら関係がよくなる」と話し、07年2月頃、田向被告に殺害を指示したという。殺害後は、この妻に「成仏していない。護摩をたいてあげる」などと言って多額の金を要求するなど、一家から計約2300万円を受け取っており、府警は、殺害は「霊能力」の高さを妻に信じ込ませ、金を得る目的だったとみている。

 得田さんを知る近所の女性(87)は「亡くなる前は車いすで外出するなど元気そうだった。時折、おかずを分けてくれるなど優しい人で、まさか殺されていたなんて」と驚いていた。
(2010年2月25日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20100225-OYO1T00397.htm

インスリン、霊能力者から渡され注射」実行役の女供述

 自称霊能力者の元民生委員ら2人が女性に薬物を投与し、殺害したとされる事件で、実行役の元介護士・田向啓子被告(53)(殺人容疑などで再逮捕)が大阪府警の調べに対し、自称霊能力者で指示役とされる元民生委員の寺谷均美被告(53)(同)からインスリンを渡され、殺害に使ったと供述したことがわかった。寺谷被告は否認しているが、府警は親族に糖尿病患者がいる寺谷被告がインスリンを入手したとみている。

 捜査関係者によると、田向被告は調べに対し、大阪市西成区の得田知子さん(当時92歳)の殺害を自供。手口について、「得田さんの家族から預かっていた精神安定剤を悪用して飲ませたがうまくいかなかったため、寺谷被告から渡されたインスリンを注射した」と供述したという。

 インスリンの入手には医師の処方せんが必要だが、これまでの捜査で、寺谷被告の親族に常用者がいるものの、田向被告の家族や知人には糖尿病患者はいないことがわかっている。

 一方、寺谷被告は得田さんと面識はなかったとみられるが、得田さんが薬物を投与されて体調を崩し、入院した後、介護にあたっていた田向被告に検査結果を尋ねるメールを送っていたことも判明。府警は、薬物投与が発覚していないか気にしていたとみている。
(2010年2月25日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20100225-OYO1T00822.htm